第三話「摂氏45℃」

村には医者がいなかった。
若い看護婦が一人だけ。

7才のイームーの案内で近所を散歩していたとき、
ある家の前でやせてシワクチャなおばさんに手招きされた。
小さなイームーが神妙な顔でおばさんの話を聞いている。
イームーの「えっ?!」という声にちょっとおどろいた。

なんだ、なんだ?
おばさんに手招きされて家の中をのぞく。
イームーがひとさし指を口にあてて静かにと合図する。
おばさんの指さす方向に目をやると布巾のかかった竹の籠。
蒸かした芋?

イームーがそぉーっと布巾をめくると、なんとそこには小さな小さな赤ん坊。
たった今、産まれたばかりの彼女の孫だという。
かたわらのヤカンやタライがお産を物語る。
母親はどこ?
私を導くおばさんのやせた背中越しに見た光景。
太陽の下、若い女がバケツ片手に水を浴びている。
 
今、産んだばかりじゃないの?
誇らしげにほほえむ若い女。

産まれたての赤ちゃんがどんなだったかより
その日の太陽と彼女の笑顔を憶えている。
あの、はにかんだような、ちょっと得意げな。

摂氏45℃。
体温よりも高い温度の熱く乾いた空気
呼吸するたび、のどが悲鳴をあげ、肺がうなった。
そんな暑い日の、そんな太陽のもとでのほほえみを。
 
続く、、、。
 

written by ザジゴン
 

 
 
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