Requiem 1 「カロー、丘の上の異邦人達」

小さなゲストハウスに客はたったの 4 人 、
私ともう二人はインレーから一緒だったからすでに仲良しだった。
しかし翌日やってきた彼の雰囲気はどこかニヒルで、中の一人は関わりたくないねと言った。

さてもともと一人旅同士、皆それぞれのペースがあって私にも私のペースがある。
一日の終わりに宿のロビーに集まって「今日がどんな一日だったか」を報告する以外は、みなバラバラに町を散策する。
しかし小さな街のこと、歩いているうちに誰かに遭遇するのが常。

「何撮ってるの?」、
「別に」
「マーケットってマーケットじゃん、結局」、
「そりゃそうだけどなあに?」
「え、別におもしろいもんじゃないってこと」、
「そうね」
「ねえ、お茶しない?」、
「誘ってるんだ?」
「暇ならね」、
「ご挨拶だこと」

ニヒルなドイツ人だった。
 
翌朝はそいつに会わないように朝早く宿を出た。
しかし丘の上の寺で僧侶と話しているところにそいつがやってきたのだ。
意外なことに僧侶は極めて自然に丁寧に彼を手招きする。

「彼も毎日ここへ来るんですよ。あなた達は敬虔なブッディストのようだ」

長い階段を二人で降りる。

「太陽似合わないよね」
「じゃ、なによ」
「ねえ、夜、一緒にご飯食べない?ネパール料理、毎日一人で行っているんだ」

翌日インレーから一緒の二人はマンダレーへ向かった。
宿には私とそいつが残った。
私は毎日丘の上の寺へ通う。

「さっきまで彼がいましたよ」、「今日はあなたの方が早いですね」
 
旅行者が二人しかいないのか毎日通う奇特な外国人はすっかり寺の有名人。

ある夜宿のロビーで本を読んでいると彼が外から戻ってきた。
私の横に腰を降ろすと「 opium 」を投げつけてきた。

「で?」
「いいヤツと出会ったんだよ。ヤル?」
「勝手に」

その翌日、丘の上の寺でそいつとまた遭った。
私は僧侶に別れの挨拶をしにきていたのだが、寺の敷地に腰掛けてそいつにも挨拶をしてやった。

「とゆうことで私は明日出発する」
「あ、俺も」
「まあ、それは偶然ね」

するといきなりそいつは私の右腕を強く掴んだ。一瞬の恐怖と痛さ。

「針刺しやすそうだね」

暑さで青い静脈が浮き出た腕。

「ねえ聞いてくれる?あんたに何かを打たれるよりも、あんたの首をしめるほうが気持ちよさそうに思えるんだけど、どうかしら?」

一瞬の沈黙の後、寺の境内で二人で笑い転げた、涙がでるほど笑い転げた。
 
(次回へ続く)
 

written by ザジゴン
 

 
 
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