Requiem 2 「パコック 湾岸戦争」

朝目をさますと廊下でヨーガをやっている男がいた。
一応挨拶はするけれどちょっと苦手だった。
何が苦手ってすべての語りが軍国調なこと。
彼も私も町に一つしかない安宿のコミュニティを形成する一人なのだが、

「 yes or no ?俺の国では女だって徴兵される、国民全員軍人だ。いいか yes or no で殴られるんだ、女だって同じだ」

小柄だが、がっしりした足腰、鋭く光る緑の目、背筋は常にまっすぐ。
実際、彼は陸軍航空部隊になんと7年在籍した生粋の軍人で、あの湾岸戦争ではアメリカ軍とともに空爆に参加したという。

「お前はインドに行ったことがあるか」
「ない」
「そうか、インドはいいぞ、」
「行った人の半分はそう言うけど」
「ああ、、、、こうやって精神を落ち着かせる」
 
ある夜「 international dinner 」と銘打って、イタリア人 3 名、アメリカ人、私、イスラエル人、韓国系アメリカ人、ミャンマー人のガイド、宿のオーナーの計9名で夕食となった。

旅をするにいたる経緯、旅を終えたあとの生活、自分の国のこと、ミャンマーのことなどについて、皆で話していたところ、やんちゃでそばかすだらけのアメリカ人のガキが言った。

「お前さあ、あの戦争で何人、殺したんだよ」
「さあ、わからないね」
「わからないってお前、自分の殺した人間の数もわかんないほどわかんないほどの人間を殺したって言うのかよ」
「ああ」

アメリカ人は大はしゃぎ。

それに対してそのイスラエル人は一切表情を変えなかった。その部分に関しての記憶と感情の揺れはまったくないらしい。目を合わす私の方がつらくなるほど。
 
「戦争なんだよ、戦争」

私の連れ(イタリア人ののっぽ)のひとことで、その場はおさまった。

「お前はお前の国が好きか」
「そんなこと考えたことない」
「 yes or no 」

今日は笑顔だ。

「いいじゃない、どっちでも。じゃあ、聞いていい?あなたはあなたの国が好き?」
「それは難しい質問だ。俺達は戦っている、好きか嫌いかとは別に」
「帰ったら何するの?」
「さあ、、、、」

死ぬのかな、この人、そう思って口をつぐんだ。

(次回へ続く)
 

written by ザジゴン
 

 
 
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